[
目 次 ]      月刊・お好み書き 1996年11月1日号


■ 盛況障害者プロレス ■
「ドッグレッグス」

来年も大阪興業 サンボ慎太郎ナゾを残す

 障害者プロレス「ドッグレッグス」の大阪・豊中での興行は10月5日に行われ、壮絶な激闘が続出、大成功のうちに終わりました。観客の反応も良く来年も大阪で試合を行うことがほぼ決定しました。そして、メインイベントで大流血戦の末、アンチテーゼ北島に敗れたサンボ慎太郎が行ったマイクアピールは僕に新たなナゾを残したのでした。
(大西 純)



「鬼」対「ゾンビ」

 どの攻撃で噴き出したのかはわからない。試合開始間もなく慎太郎の顔面は真っ赤に染まっていた。おびただしい量の鼻血。おじけついたように、北島の足元にまとわりつき、うずくまる慎太郎。北島は、さらに容赦なく顔面を踏みつけたり、蹴飛ばしたりしていく。それでもゾンビのように立ち上がる慎太郎。その鼻は、ひん曲がり、腫れ上がっていた。骨でも折れたか----。多くのスタッフもそう思っていたというほどの、いや、試合相手の北島でさえ「やってて怖くなった」という戦慄シーンが次々に続いた。もうKOか…。そのたびに、慎太郎は北島の蹴り足をつかみ得意の寝技に持ち込み関節技を決めにかかる。ヒザ十字固めだ! あわやギブアップか、という場面も何度かあった。


アンチテーゼ北島(手前)を後ろからとらえようとするサンボ慎太郎


好きだから殺す

 アンチテーゼ北島は障害者プロレス団体「ドッグレッグス」の代表で健常者レスラー。31歳。「愛や優しさを前面に押し出したボランティア活動に嫌気がさして」(公式ガイドブックより)障害者プロレスを始めて5年。「好きだから殺す、それが福祉と言い切る男」(リングアナウンサーの紹介口上)である。
 北島と、サンボ慎太郎(28)は10年以上のつきあいだ。北島は慎太郎のことを「弟のようであり、弟子だったり先生だったりペットだったり、かけがえのない友人だったり」と表現している(大阪興行のパンフレットより)。2人のシングルマッチの対戦は過去アンチテーゼ北島の6戦全勝。お互い理解し合っているからこその潰し合いは、ドッグレッグスの名物カードである。


“救急箱事件”

 第2ラウンド終了後だった。あまりの流血に新垣多恵リングアナウンサーが慎太郎のコーナーに傷の手当に走った。ところが、何を思ったか、北島はレフェリーを振り切り慎太郎のコーナーへ近寄って行く。そして、手当に使う救急箱を蹴飛ばしてしまった。その行為に「思い切り腹が立った」という新垣リングアナも、さらに救急箱を蹴飛ばし、あわれにも救急箱は宙を舞いホールの隅に飛び散った。場内はどよめき、その後沸き返った。場内では実況放送も行われているのだが、解説者のマチズモ神山は「これでいいんです。2人の闘いに邪魔は要りません」と繰り返していた。
 “救急箱”のシーンは、この日最高の場面のひとつだったと思う。救急箱のあまりに見事な“受け身”を見ながら、北島が前回のインタビューで言っていたことを思い出した。
 「観客の大半を占める健常者が感情移入しやすいのは、結局のところ健常者なんです。健常者である自分が、障害者(である慎太郎)と、どのように向き合っているか見せたい。だから僕はリングに上がっているわけです」
 障害者のプロレスを見に行っているのに、健常者レスラーを見た方が感情移入できるなんて本当だろうかと思っていたが、救急箱の場面に遭遇し、僕は、北島の言葉が実感としてわかった気がした。この場面以降、僕も含め観客がヒートアップしたのは間違いない。

  北島のかかと落としが慎太郎の背中に


慎太郎勝てず…

 殴られ、蹴られ、悶絶し、ヘロヘロになりながらもKOされず、スキあらば関節技で逆転を狙った慎太郎…。試合終了のゴングが鳴ると立ち上がれなくなり、その場で嘔吐している慎太郎を見ていると、おおげさではなく、ジーンとしてしまって涙が出そうになった。
 結局、慎太郎は7度目の対決も北島に勝てなかった(慎太郎ダウン4回、北島エスケープ2回。時間内に決着しない場合はダウンや場外に逃げた回数が少ない方が判定勝ちとなる)。北島の前でひざまずき「すいません……負けました……」と泣きじゃくる慎太郎。北島も応えて「何度でもお前とやってやる」とマイクアピール。2人は握手し、抱き合った。


“落ちこぼれ発言”

 感動的なエンディング……と思った瞬間、慎太郎の問題のマイクアピールが始まった。
 「これがオレたちのプロレスだ。これがドッグレッグスだ。オレたちは落ちこぼれなのか。オレたちは死ぬ気でがんばっているんだ!」
 はっきり聞き取れなかったがだいたいこんなことを言っていたと思う。客席からは「その通りだ!」という掛け声がチラホラ飛んだが、大部分は何を言っているのかわからないという感じで間を置いて拍手があった。

  マイクを握る慎太郎(試合前のもの)


お前は落ちこぼれか

 後日、慎太郎のマイクアピールについて北島に話を聞いた。慎太郎自身も話に加わって、北島が慎太郎を問い詰めるような形で話は進んだ。
 (北)「どうして落ちこぼれなんて言う必要があるんだよ。言葉じゃなくて試合で感動させろよ。がんばったかどうかなんてお客さんが決めることだろ」 (慎)「これが障害者プロレスだって言いたかった……」
 (北)「だったら、それだけでいいじゃないか。お前は落ちこぼれだと思ってるの? お客さんは障害者は何もできないと思ってるかもしれないけど、でもそれは落ちこぼれとイコールなの?」


試合で見せろ!

 (慎)「仕事場で掃除が遅いと言われたんです…」
 (北)「掃除が遅いのと落ちこぼれが関係あるの? 結局、観客の同情を買いたいんだろ。ひきょうだよ。バカなお客さんはだまされて感動するけど、そんなもの上滑りだよ。試合で見せろ! 闘いの中で。浪貝なんて凄い試合やって何も言わないじゃないか。言葉で表現できるんだったら、プロレスなんて、やらなくていいだろ。歌でも、うたってたらいいんだよ」
 予想通り、この件に関して北島は怒っていた。
 「アイツがマイクでしゃべっている途中に、後ろから蹴飛ばしてやろうかと思ったくらいですよ。まあ握手もした後だし、お客さんのことを考えて抑えましたけどね。もっとヒドイ目に遭わさなきゃならないですね」 北島の言うことは正論だと思う。僕も現場にいて、慎太郎のマイクに、何か拍手を迫られているような気になった。取材に来ていたテレビ局は、逆に慎太郎の言葉を美化して、よくある障害者ががんばっていますというようなニュースに仕立て上げていた。「慎太郎さんの最後の言葉に勇気付けられました」というような観客の声が使われていた。


慎太郎の夢

 “落ちこぼれ発言”は慎太郎の本音なのだろうか。実は試合前、全選手入場の際にも慎太郎は“落ちこぼれ発言”の布石を打っていた。
 「オレたちが落ちこぼれなのかどうか見て下さい」
 北島は「本音じゃないでしょう」と言うが、それなら、慎太郎の“落ちこぼれ”へのこだわりは何だったのだろう。
 慎太郎の夢は「職業のゴミ分別工場で認められて、少しでもいい給料をもらって、結婚して、子供を作ることだという」(大阪興行パンフレットの北島のあいさつ文より)。


せつなくなる…

 慎太郎は「仕事場で掃除が遅いと言われたから」落ちこぼれ発言をしたと言った。きっと毎日のように自分が落ちこぼれだと思ってしまうことがあるのだろう。せつなくなってしまう。“落ちこぼれ発言”は感情が高ぶって、つい口からついて出たグチなのかなと思う。そう考えると僕は“落ちこぼれ発言”を頭から否定できない。
 言うまでもないことだが、健常者社会の中で障害者が生き抜き、まして夢を実現させていくのは、とてもしんどいことだ。だからこそ北島は、自分が高い壁となり、慎太郎を潰しにかかる。そういう北島も、自力で立ち上がろうとする慎太郎も凄いと思う。全面的に支持する。 だけど、いや、だからこそ誰だって時には逃げたくもなる。甘えたくもなる。激しい闘いの、すき間から漏れて聞こえる、そんなグチにも注目していきたいと思う。



オープニングカードは、バテラン・アームボム藤原が
新人ノーシンパシーを一蹴

愛人(ラマン)は女装が趣味。
セーラー服のコスチュームの下は
女子用スクール水着

第3試合の十人タッグマッチの障害者コーナー。
放送席からピクニック気分で眺めているようだとつっこまれていた

 

ノーマライゼーションなんてくそくらえ!
アブノーマライゼーションの
アブノーマルなコスチューム

木崎華也子とマチズモ神山のダンスパフォーマンス




ナイスガイを得意のバタアシキックで攻める浪貝
第2代スーパーヘビー級障害王
目で語る男 欲獣マグナム浪貝


ナイスガイを破り、第2代スーパーヘビー級障害王のタイトルを
奪取した欲獣マグナム浪貝。王座の象徴“イバラの王冠”を手に
控室に帰ろうとするが精根尽き果て、この後昏倒

 

そい寝しているだけ?だった女子プロレス。
やっと寝返りをうって上になった新橋三枝子

タイトルマッチにはラウンドガールも

ヘビー級障害王ゴットファーザー(右)は
強烈なスリーパーホールドで      
アブノーマライゼーションをガッチリとらえる


◆10・5「いてまえハンディキャップ」試合結果
(豊中市ローズ文化ホール、観客400人=超満員=主催者発表、鏡剣死郎欠場により一部カード変更)

1.障害者プロレス(3分5R公式ルール)
  アームボム藤原○ 4R4分42秒 フロントフェースロック ノーシンパシー●

2.障害者プロレス(3分5R公式ルール)
  ウルフファング○ 1R2分2秒 フロントチョークスリーパー バーサク大滝●

 先月号の本紙で、イチ押しで取り上げたウルフ。期待に違わぬファイトだった。自慢のキック“狼斬り”が冴え渡り秒殺。観客アンケートでも人気を集めていた。1月にはスーパーヘビー級障害王に挑戦する。早くも王座奪取、長期政権を宣言。


3.障害者対健常者男女異者格闘技10人タッグマッチ(30分1本勝負)
 (障害者チーム)サンボ慎太郎、ブルース高橋、ゴッドファーザー○
         あらいぐまラジカル、アブノーマライゼーション
    24分30秒 胴絞めスリーパー
 (健常者チーム)アンチテーゼ北島、マチズモ神山、コマンドでこ●
         ワルキューレ瑞穂、ゴッドファーザーJr


4.ドッグレッグス認定世界障害者プロレススーパーヘビー級選手権試合
  (3分5R公式ルール)

  欲獣マグナム浪貝○(挑戦者) 5R判定 ナイスガイ●(第2代スーパーヘビー級障害王)

 立って試合ができない重度の障害者のクラスのタイトルマッチ。「イバラの冠」をかけて戦う。この日のベストバウトだったと思う。打たれても打たれても、ひたすら前へ出る浪貝。まばたきをせず目をグッと見開いた、イッてしまった浪貝の表情が印象的だった。死闘の末、浪貝がタイトルを奪取したが、試合後昏倒。バトルロイヤル(ザ弱者として)を欠場することになった。次期挑戦者ウルフファングとは、早くも火花が散っている。先月号でも書いたが2人はスパーリングでも白熱の好勝負を展開していた。「ウルフは最近生意気だから潰してやる」と浪貝。名勝負の予感。


5.障害者女子プロレス(5分1Rルール)
  新橋三枝子 1R引き分け 千野恵子

 2人とも寝返りすら打てないのに、観客と実況放送さえあれば試合になってしまうところがプロレスの凄さだ。観客アンケートでも女子プロレスの充実を求める声が強かった。


6.障害者プロレススーパーヘビー級バトルロイヤル
  (20分1本勝負勝ち残り特別ルール)
  愛人 ○愛人(ラマン) 7分29秒リングアウト パトス森下●
  ノーシンパシー(ザ弱者の代理)、丸山マグマ、ワイズマン

  ワルキューレ瑞穂の夫で女装が趣味の愛人が優勝。


7.ドッグレッグス認定世界障害者ヘビー級選手権試合(3分5R公式ルール)
  ゴッドファーザー○(第10代ヘビー級障害王) 3R43秒TKO アブノーマライゼーション●(挑戦者)

 ゴッドファーザーが圧倒的な強さを見せた。スローモーションのように倒れたアブノーマライゼーションが印象的だった。


8.障害者対健常者異者格闘技戦(3分5R異者格闘技禁じ手ルール)
  アンチテーゼ北島○(健常者) 5R判定 サンボ慎太郎●(障害者)


◆ドッグレッグス次期興行◆
 来年1月11(土)午後6時〜、12日(日)午後3時〜の2日連続興行です。場所は東京都の北沢タウンホール(小田急、京王井の頭線下北沢駅南口駅下車3分)です。詳しいことは次号でお知らせします。
 前売り2500円。チケットぴあにて発売中(電話予約03−5237−9977)。
 各種問い合わせはドッグレッグス 03−3309−6624まで。



  [ 目 次 | 上へ↑ ]      月刊・お好み書き 1996年11月1日号